『難病』とは、中国医学では『怪病』、『奇病』といいます。『怪病』とは、病気の症状が複雑で診断が難しい病気のことです。例えば『梅核気』(咽喉頭部異物感)、『奔豚気』(激しい動悸)、
あるいは現代医学でいう不定愁訴症候群のような症状が多彩で自覚症状以外は異常が見られません、病因と診断が難しい病気は概して『怪病』といいます。
『怪病』の原因
中国医学は、臨床治療の経験から進化、発展の過程で完璧な理論体系を作り上げ、
その理論を持って臨床治療を指導する医学です。『怪病』という説も臨床治療結果からの結論です。
例えば漢方薬で臓燥証(頭痛、脇の下、腹部、乳房が張る、倦怠感、食欲不振、イライラ、情緒不安等現代医学でいえば更年期障害症)という病気の治療は『逍遥散』という漢方処方で治療すれば効果が出来るはずですが、時には全然効果がない事があります。
それで『逍遥散』の中に半夏、桔梗等化痰作用の薬を入れて服用すると、効果がよく現われます。
そこで『臓燥証』という病気は『痰』が絡んでいることがわかりました。臨床にはよく化痰薬物を投入します。意外にも効果がよく現われます。それで『怪病多疾』という説が生まれました。『怪病』の原因は『痰』と考えています。
■痰の正体
痰の概念は二つあります。 一つは咳等肺、呼吸系から出る痰、鼻水も含めて形がある痰です。
中医学で『有形之痰』といいます。もう一つは肺、脾、肝、腎など臓器の生理機能異常によって
水液代謝失調となり余分な水分が体内に貯留し、痰になります。
この痰は形がないので『痰飲』といいます。中医学では『無形之痰』といいます。
『怪病』の原因はこの『無形之痰』と考えられます。
『痰飲』は気の運行のって全身の臓器組織、器官に分布し、それらの正常な生理活動を防害し、病気の原因となります。『痰飲』は侵入部位によって症状が違います。例えば頭部に侵入すると迷い、頭重、健忘など、心臓に侵入すると動悸、精神状態異常など、肝臓に侵入すると脇の下が張る、イライラ、生理不順等、(脾)胃に侵入すると思心、吐気、食欲不振等、四肢に侵入すると重たい、麻痺、感覚異常等があります。また『痰飲』による病気の特徴は、多臓器組織に関係しますから、症状が多彩で診断が難しく、治療は困難なので『難病』ともいわれます。
■鍼灸と難病の治療
前に紹介したように『痰飲』による病気は、多臓器に関係します。
臨床症状も複雑で原因証明も難しいので、治療には体全体の状態を見て、細心の注意を払って原因をつかみ、治療の鍵を手に入れます。
私の行きつけの飲食店の経営者Zさん。男性 36才。
6年前から頚部が寝違ったように回らなくなりました。痛くはないが重く、本を読むと頭痛、めまい、吐気をします。病院での検査は異常が見られません。安定剤と筋弛緩剤をずっと飲んでいます。
たまにハリとマッサージ治療を受けますが、症状は一向に改善されません。頚部を触って見ると、板のように硬く、頚部は頭より太い。たたいたり、力一杯で押さえても感覚が全く有りません。
そのめまいと吐気から、私が『痰飲』によるものと考え。Zさんに説明しました。Zさんは治療して見ましょうと言ってくれました。
Zさんの治療は化痰法を中心に週2回で鍼刺中かん、豊隆、足三里、内関、陰陵泉などのツボに
各灸5分間、5週間で全治しました。Zさんの例は比較的く分かり易い病気ですが、臨床治療において、
精神的と肉体的な原因が混在するケースがとても多いです。
アさんは女性29歳。
平成10年5月に診療に来ました。アさんは高校三年生の時に不登校になり、以来家にこもりがちです。
人と会うのは怖く拒食と過食を繰り返し、精神科と心療内科病院に通い続けていました。
はっきりとした診断もなく、ずっと安定剤を飲み続けました。2年前に安定剤の副作用で脳下垂体部に腫瘍が出来て、薬を飲むのが怖くなって知人の紹介で当治療院にきました。
アさんは、頭痛、腹部が張る、肩こり、腰痛、生理痛、動悸、冷え性等全身が悪いと言いました。アさんの話を聞くと、すぐ『痰飲』によるものと分かりました。私がアさんにハリと背部、腹部のマッサージの治療を勧め、少しずつ安定剤の量を減らすように言い、アさんはこれを了解しました。
アさんは週1回のベースで治療を続けました。1年後、デパートでアルバイトを始めました。
今は薬を飲まないで元気に働いています。
ハリ灸治療は魔法ではなく、万能でもありません。但し、ハリ灸治療は人間の生理機能疾理変化の規律性と臨床治療経験を結合した理論性の治療方法です。正確の判断、適切な治療を行なえば、かなりの疑難病が治ると思います。