◆自律神経失調症と鍼灸治療

 自律神経とは、人間自分の意識と関係なく、あらゆる臓器の働きを支配し、必要に応じて、自律的に調整される神経のことです。

 自律神経は、交感神経副交感神経があり、一つの神経は臓器の働きを促進する。もう一つの神経は抑制する働きをして、二つの神経は互いに対立して、ある一定の範囲内でのバランスをとり、正常な生理活動を維持します。

 自律神経失調とは、交感神経と副交感神経の互いに抑制と促進する働きのバランスが崩れることによって生じる臨床症状のことです。

 自律神経失調症の範囲は非常に広いです。頭痛、頭重、不眠、疲れやすい、体がだるい、心臓がドキドキする、めまい、耳鳴、胃が重いなど不定の訴を持っている症状以外は、ノイローゼやうつ病など精神障害も少なくありません。

 また、思春期也、更年期などの内分泌系の変調をきたす諸症状も含まれています。特徴として、精神的、肉体的な複数の症状が同時にあらわれるこのとが多いのです。臨床では各個の症状に対する治療に限界があります。体全体の根本的な治療を考えなければ、治療にはなりません。

 鍼灸による自律神経失調症の治療は、鍼灸治療の「特異性」を利用する治療です。と言うのは、体の異常が発生する時、鍼(また灸)で、体のある特定の経路、ツボを刺激すると、体は恒に異常状態から正常状態に戻そうという働きがあります。例えば、便秘症と下痢症の鍼灸治療は、同じ大腸系の”合谷”というツボを選んで治療します。便秘症と下痢症、両方とも効果が得られます。便秘症の原因は、大腸の働きが鈍い(低下)です。下痢症は、大腸の働きが過敏(過剰)によるものです。”合谷”というツボを刺激によって大腸の抑制と促進の働きを元の正常な状態に戻します。臨床で無汗症、多汗症、手足の熱っぽさと、手足の冷えも同じ治療方法です。このように同じ場所で、症状と性質が違う病状が同じ経絡、ツボを選んで治療する、両方とも効果が得られるのは、鍼灸治療の「特異性」といいます。

 鍼灸による自律神経失調症の治療は、正にこの鍼灸治療の「特異性」を利用して、崩れた自律神経の働きを正常の状態に戻す根本的な治療法です。

 正しい漢方医学の四診にて、正確な原因、部位を確定し、適切な経絡、ツボを選んで、治療すれば、期待以上の効果が得られます。ある意味で、自律神経失調症の治療は、鍼灸治療の中でもともと特意な分野といえるでしょう。皆さん、どうぞ御気軽にお試し下さい。

◆ ハリ、灸治療の理論的根拠

 ハリ、灸治療は古くから日本に伝わり、今では「鍼灸」という言葉を 知らない人は居ないと思われるほど一般的になっております。しかし、 ハリ灸治療の本質が何であるかを明確に知っている方は、まだまだ少ないと思います。 そこで、ハリ灸の治療理論について簡単にご紹介致します。
多少、専門的であったり、抽象的で合ったりしますが、正しい知識を持つことは 、これからハリ灸治療を受けられる方はもちろんのこと、ご自身の健康管理にも役に立つことがありますので、ご参考になさってください。

 ハリ灸は「漢方薬」「あん摩」と並ぶ代表的な東洋医学の治療方法の一つです。
その理論的根拠は東洋医学基本理論です。東洋医学の基本理論は 「陰陽・五行学説」「臓腑学説」「経絡・経穴学説」「病因学」「気・血・水学」等が あります。その中で、「陰陽・五行学説」は中国古代の哲学思想です。少々、抽象的な 学説なので、ここでは省略させて頂きます。

 東洋医学には「整体観念」と「弁証・論治」という2つの特徴があります。
整体観念・・・「整体」には2つの意味が含まれております。一つは身体の統一性であり、身体は一つの整体として、すべての臓腑・組織器官はお互いに関連し協調して生命活動を営みます。例えば、肺から吸入した空気は、骨髄で生成された赤血球と結合し、心臓の収縮運動で全身に運ばれていきます。このようにして一つの生理現象には多数の臓器が関係し協力して行っています。身体の病理変化も互いに影響を与えています。例えば肝臓の異変は消化器系の病気を引き起こします。臨床では病気を身体全体の相互関連性から分析し、診断・治療を行います。中国最古の医書<<黄帝・内径>>には、”見肝之病、知肝伝脾、当先実脾”という教えがあります。これは肝臓に異常が起これば、必ず脾臓に影響を与え、まず脾臓の補強から治療していくという意味です。
 「整体」のもう一つの意味は、人間と自然の統一性です。人間は自然と共に生きています。当然ながら自然の気候・季節・環境の変化は人体にも間接的、もしくは直接的に影響を受けます。例えば、リューマチや気管支喘息の患者さんは雨の日あるいは季節の変わり目には症状が重くなり易い傾向があります。近年、花粉症などのアレルギー性疾患が増えているのは自然環境の悪化によるものも大きいと考えられます。

弁証・論治・・・「弁証」とは病気の本質を明らかにすることです。「論治」とは、「弁証」から得られた病気の原因、病気の本質を根本から治療することです。例えば、頭痛は「前頭部頭痛」「頭頂部頭痛」「偏頭痛」等があります。西洋医学ではどんな頭痛に対しても、鎮痛剤等を処方します。一方、東洋医学では「陽明経頭痛」「厥陰経頭痛」「少陽経頭痛」に分類され、それぞれの頭痛を起こす原因によって治療方法も異なります。要するに症状に対する治療ではなく、症状を起こす原因を取除くことが目的になります。